匠 x Islife

最終の今回は、匠 野手の織る誰もが知るモケットを、芋生社長とシンコー(株)の矢追社長が対談形式で紹介していきます。

 商品名:DR-9 

DRシリーズの#9として、1988年発刊のFurnishing Fabrics Vol.40に掲載されました。

30年近く愛用され、シンコー Islifeの代表作の一つとなっています。 *現在は、完全別注で製造されており、一社以外のお客様への供給はされておりません。

vol40 DR9

 

 

 

 

 

 

当時のサンプル帳の中身は、モケットが中心でした。

DR9モケット

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

DR-9の作り方と特徴(製品特徴): 

野手 芋生社長「光の反射を複雑にコントロールするために、織り方を複雑にし、品の良い艶が出るように、同色の糸の光沢を活かして柄を出しています。」

矢追社長「確かに、パイル糸の方向と角度が絶妙にコントロールされていますね。 ロングセラーには、必ずと言っていいほど、彼方此方で、ひと手間が加えられている。しかも、その手間の分、きちんと価値が出ています。」

野手 芋生社長「柔らかで上品な手触りは勿論、深い光沢感で、良質の仕上げを意識しています。 摩擦に強い耐久性を出す為の様々な工夫が詰まっています。 他には真似出来ないと自信を持っています。」

矢追社長「モケットの良さは、何と言っても耐久性です。 パイル糸が、歯ブラシのように前後左右に揺れ動くことで、織物のコアを痛めない。 古くからある喫茶店で、ウレタンやゴムがダメになっているけれど、モケットは20年、30年前のものが多少毛は抜けていても、破れていないまま保っているのを彼方此方で見ています。」

野手 芋生社長「昔はパチンコ椅子、家庭の椅子、何でもモケットが使用されていました。 今でも、モケットの良さを知っている本物志向の喫茶店主の方々は、モケットを指定してくれていると聞いています。 実際に、本格派大手喫茶店チェーンに使用されていますから、丈夫でゆったりくつろいでもらえる生地作りを心掛けています。」

矢追社長「パチンコやスナックなど、過度に使用する用途には最適ですし、座っていて蒸れないから、長い間座ってもらう“おもてなしの喫茶店”なら、今でも必需品だと思います。 色んなコンセプトの喫茶店がありますよね、回転率勝負だとか。 モケットは、そうした所では使われません。 まさに、おもてなしの最高素材として、使われているのは間違いありません。 椅子張りの良さ、モケットの良さを知る、本物志向の織物と断言していいですね。 特に、DR9の様に工夫が詰まったモケット織物はめったにない。 日本屈指のモケットです。 最近、心無い偽物がアジアで作られたと聞いたが、創意工夫の塊を真似したら、それは、明らかに偽物にしかならない。 『日本の魂』を売って、『おもてなしの道具』になるわけがないですよ。 もっと、値上をしないとならない素材ですから、海外でやられると、涙が出てきますよ。 良い物を皆で、良い物として、残していくべきでしょう? 偽物は所詮、偽物ですよ。」

 

続いては、現在もサンプル帳に掲載されており、日本全国で愛用されているロングセラー、ザ・モケットの紹介です。

商品名: ザ・モケット

一番スタンダードなプレーンなモケット。 これがモケットだという矢追社長の思いで、ザ・モケットと名付けられた逸品です。 徐々にレザーや他の薄い織物に代わり、モケットの需要が減る中で、何十年も値上をしてこられず、織屋さんの廃業が相次ぎ衰退の一途を経験してきました。 それでも、モケットを織り続ける拘りが、この商品にはあります。

Themocquette

 

野手 芋生社長「ザ・モケットは、経、緯、パイル糸の密度が多く丈夫で重い織物。『これぞ!モケット!』と言う織物ですよ。」

矢追社長「オフィス向けの織物では、価格ばかりが優先されて、作り手から見たら魅力の少ない資材になりました。 私は開発責任者で陣頭指揮をとっていますが、オフィスの開発になると如何も売れるものが作れない。 糸の撚りをかけてしまう、糸を増やしてしまう、どんどん高い構造になって、コスト段階で希望値を超えてしまう。 私の開発がダメでも、オフィス専門に作ってくれる社員もいますので、市場を放棄することなく今日までオフィスでも評価をされていますが、私への評価ではありませんよ。

価格を抑えるために糸の密度を下げた織物を大量生産し、我々が1年も2年も大量在庫してごまかしてきた。 私の会社が当事者の一人になるのですけれどね。 簡単に言うと、薄い織物に変えることで、材料費、染色費、光熱費が幾らか下がり、大量在庫の負担として、コストが下請け、いわゆる我々に負荷となった。 椅子一本一本での表面材のコストは、ウェイトが低いために、十分コストが下がりませんが、椅子の本数が多いオフィスですから、全体としては大きな効果となるのでしょうけれど。 次第に、糸をしっかり撚らずに、細い糸を太く見せて、軽く仕上げる織物だらけになって。 長いデフレでコスト要求が厳しいとはいえ、工業化の行き過ぎかもしれません。 アメリカのオフィス家具の展示会では、表面材でケチっていませんよね。 5-6倍の価格の表面材が使われている。こういう展示会をみると、我々はアジアにおける安物の王様みたい。 現在では、さらに、織物を極力使わずに、背をプラスチックやメッシュに変えてコストを抑えています。 そうした中で、ザ・モケットは糸量を全然ケチらない。 糸の質を落とさない。 これが、王道を行く織物です。 良い織物は持っただけでわかる。 糸がギッシリ詰まっているから。」

野手 芋生社長「モケットならではの温かさ、柔らかさがあります。 価格だけで、消費者が喜ぶわけがない。 独特の風合いを素材の持つ特徴を引きだして、ずっと座っていても快適になるよう仕上げている。」

矢追社長「ちくちくもせず、程よく通気してくれるので確かに長い間座れる良い素材。 糸をバッと開かせて、無駄な毛をとり、スチームをあてて仕上げる。 この手間をかけた織物が、安物と一緒にされる方がおかしい。 生き残れる価格で販売していくには、まだまだ、この値段でも合わないだろうが、我々が伝道師となり良い織物の代表にしたい。」

野手 芋生社長「しかも、小ロットで対応しています。 小ロットだからと言って、手を抜かず丁寧な商品づくりをしているから、高品質であることは間違いありません。」

矢追社長「ザ・モケットに限らず、お客さん毎にモケットを別注対応し、野手さんにお願いしているが、近年はモケットの毛倒れがクレームとされます。 毛が倒れると光沢の変化で、帯状に色が違って見える、それも商品特性なのだが、美観がわるいという理由で敬遠されている。 特に、販売員がきちんとクレームでないと言い切れない、プロではなくなってきている。」

野手 芋生社長「毛倒れ防止で、『吊るし』といって、反物が地面に直接触れないように特殊な箱で運搬および在庫にするなどして色々と工夫しています。それでも、織ったモケットを巻くと当然倒れる。それはやはり商品特性としか言えませんね。」

矢追社長「その通り。モケットは美観を超えたロングライフという特徴があるから、数年使った後の美観で他の織物と比較して欲しいですね。 匠シリーズで取材を受けて頂いて、大変感謝しています。 高級品とは何か、もっと市場に宣伝していきたい。 有難うございました。」

 

矢追社長 後記:特集 匠xIslife にご協力頂きました、企画編集会社の皆さん、カメラマンさん、フリーライターさん、野手の皆さん、またスタッフ一同にお礼を申し上げます。

店舗設計や椅子メーカーの若いデザイナーさんが、モケットの毛倒れは不良だと言い張って、張替えろと主張する現場を数々見てきて、本質の良さを判らない日本はおしまいかと思い込み、打つ手がなく、20年が過ぎました。 しかし、殆どテレビを見ない私でも目に付くような、日本の良さを紹介した番組が多く、更に若手の経営者が仕入先から高く買って、高く売る、それだけの価値がある!というのを見て、ハッとするものが在りました。 どんなに良い物を作っても、要望以上の物に仕上がっていても、我々の営業の段階で値を下げろという話で販売価格を下げてしまう。いつの間にか、下請けなのです。下請けなら、会社をたたむ。そう言い聞かせて、今日までやってきましたが、実態は下請け。 利益がどんどん薄くなり、量も大量生産に程遠く、出ない。 お客さんからは、全然儲かっていないと聞き、そんな馬鹿な!と思い、販売店を覗く。 すると、表面材の価格からしたら、驚くほど高い価格で販売されている。 貴重な素材ということを知っているのか、ともったいない気持ちが膨れていく。 数年経つと、バイヤーさんらがアジア諸国で、全く同じものを作れと見本を渡してしまい、一時的にでも海外生産になり、日本の生産がギブアップします。 結果、品質キープが難しく、ロットがでかすぎて、できないと結論され戻ってくるのですが、そのころにはやり繰りするだけの苦労です。 この繰り返しにうんざりしているのが実態の現場ではないでしょうか。 モケットの良さは耐久性にあり、独特の質感であります。 是非、その品質に注目をしてください。 良い商品を残していきたい、そのために何でもしようと号令をかけています。

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