『高品質を支える、人と機械の力 〜マイスター達の仕事場を訪れる〜』 其の2 Page1
現在、野手さんの会社で生産されているモケットはほとんどが無地のものになるそうだ。トラックの内装など車両雑貨として使われる事の多い複雑な柄の金華山など派手目の生地は最近需要がめっきり減ってしまったという。新規で新しい柄を生産するにはリスクが高く、作ってみたけれども売れない・・・(在庫を抱えてしまう)というリスクはやはりさけたいからだ。無難な無地(無地に近い)モケットを生産することが、量産を重視している今の市場を考えるとベターなのだそうだ。
とはいえ、無地だから簡単に作れるという代物ではない。むしろ高度な職人技の結晶だということを、実際の織機などを見学させてもらいながら取材してみて知る事となる。
芋生さんの工場を見学させていただきながら、引き続きお話を伺ってゆく。
高品質なモケットを作り続けられている野手さんの工場は、昔から腕の良い職人さんが多く働かれていたようにお話を伺っていて感じますね。
そうですね。運が良かったのかもしれませんが。
人とのご縁は運ですものね。
父の代からずっと最近まで働いてくださっていた二人の織手さんや、長年織長として勤めてくださっていた職人さん、外注で仕事をしてくださっている方達にしても、腕の良い職人さん達がうちのモケット生産には多く携わってくださっています。
長期にわたって磨いてこられた職人さんたちの高度な技術をもって、うちのモケットの品質は守られているといっても過言ではありません。
無地モケットというものについて、教えてください。
一言でいうと、「品質の善し悪しがはっきりわかる商品」ですね。素人さんの目ではわからないかもしれませんが、関係者がみたらすぐにわかってしまうんです、モケットの切り口を見たら(笑)
そんなに違うんですか?見た目で?
全然違いますよ!私がナイフを合わせたりしたらガタガタですもの(苦笑)。
なるほど。裁断のプロフェッショナルがいらっしゃるという事ですね?
凄い方ですよ〜!今うちで働いてくださっているナイフ合わせがとにかく上手い職人さんなのですが、私たち専任の職人ではない者からしたら桁外れの精度をもって力織機のナイフ角度を砥石で合わせて下さっています。
力織機には左右に硯石がついていて、高速でナイフが行き交い、生地の接合面を裁断し二枚のモケットに仕立てていきます。砥石とナイフの角度の合わせ方なんていうのはマニュアルがあるわけではないので、マネできない職人技ですね。スカッとした切り口で仕上げないと無地故にごまかしがきかないですから、美しい断面が仕上がりを左右するんです。ナイフ合わせは1人の職人さんにお任せしています。
そうそう、今回稼働している力織機は7年ぶりに稼働しているらしいですね?
某有名ホテルの椅子張用に受注生産しているもので、機械も50年以上前の代物ですが、現役で稼働してます。無地の様に見えて、ぽつぽつと柄のような凹凸が入ったモケットを作っているところですね。この機械はここのホテルさんのモケット用においているようなもので、久しぶりに動かすのにメンテナンスするのが大変でした。「タナカB型W力織機」といいます。パイル織物専用の機械なので、例のごとく、二枚同時に織り上がってくる生地にナイフを使って中央の接合部分を裁断して完成させるタイプの機械になります。
このW力織機はシャトルの糸(意外と少ない量しか巻けない)を割と頻繁に交換しないといけなくって、定期的に糸がなくなると機械が止まります。作業効率はそんなに良くないです。
ではいつもは、別の織機が稼働しているということですね。
はい、そちらは“レピア”という織機になりまして、無地のモケットはそちらで製造しています。
レピアはW力織機と違って、シャトル糸の交換が少なく、大量に緯糸用の糸を糸巻きにストックしシャトルに載せて緯糸として織っているので、作業効率が良くなっています。シャトルもW力織機のように左右を走らせず、中央までシャトルが飛び、緯糸同士を受け渡して戻ってくるので、作業が早い。また、ギアを代える事で経糸の調整を比較的簡単に行え、モケットの毛足の長さを変えることができます。
機械の後ろ側ってどうなっているんですか?
整形が済んだ経糸を巻き付けたビームというものがセットされています。100kg以上の重さになるのでセットするのも一苦労、力仕事になります。
W力織機とレピア織機では職人さんが面倒を見れる台数も違ってくるんでしょうね。
その通!1人の職人が担当できる台数ですが、W力織機なら2台。レピアなら5台と、ずいぶん違ってきます。
織機の稼働音が何だか可愛いですね。
そうですね(笑)。パシャパシャという音はW力織機の音ですね。シャトルが緯糸を通す為に左右を走り、機を織っているリズムが軽快ですよね(笑)。レピアの方は、もっと力強い「バンッバンッ」という低い音がします。機械によって織っている時の音も違います。
話は戻りますが、職人さんは専任のお仕事が多いのですね。
分業しながら、職人は各自専門の分野で仕事をしていますね。
なるほど。他にも専門織の方のお話お聞かせください!
そうですね、「あぜ通し」の職人さんとか、知ってますか?さきほどレピアの説明の際に出てきた「ビーム」に関係してきます。糸の整形部門のお話になってきます。
「あぜとおし」?どんな事をされるのでしょうか?
「おさ」という大きな櫛の様な器具を使い「整形機」という大きな機械を回しながら、後に織機にかけた際に巻いた糸が織上がりの際の生地の表地用と裏地用に2口に分かれるよう巻いていく作業のことです。織機にセットする前に、ビームに特殊な糸の巻きを仕込んでおくんです。モケットを織るには絶対必要な工程です。
布の大きさによって巻きも変わってくるのですが、今回見学してもらった糸はきっちり327回転で巻ききられるようにセットされています。
工場内を案内していただき、職人さんのお仕事を拝見させていただき有難うございました。ちなみに、従業員さんというのは現在何名ほどいらっしゃるのでしょうか?
今では人数も減りましたが、織機を操る職人として3名、織る前に糸の準備をする整形職人が1名の合計4名になります。うち織機職人として私の息子も一緒に働いているんですよ(笑)。機械をいじるのが好きみたいで、古参の職人に混じって頑張ってます。
大分年齢の離れた大先輩方とお仕事されているんですね。
60代、70代の職人さんと一緒に働いていますねぇ。職人の高齢化が進み、就業平均年齢も大分高いです。これは繊維産業全般に言える事ではあるのですが、後継者不足と需要低下で産業自体が右肩さがりです。
高野口では近所の工業高校があって、そこから毎年新卒をとっている会社さんもあるので組合には若い方も加盟されてはいるのですが、それでも職人さん達の平均年齢は下がりませんね・・・。若い女性の職人さんなんかは、今のところいらっしゃらないですし。
せっかくの織の技術を絶やさない為にも、後継者の育成が急がれるのですね。
すばらしい技術を残して行く為にも、重要な課題ですね。
其の2 Page2へ