『衰退の危機を背中に感じて 〜直面する問題に向き合う〜』
先ほどお聞きした後継者不足、高齢化による働き手さんの減少。暗いお話が続いてしまいました。
そうですね。モケットの需要が減ってきている事も事実でして。需要を増やしていきたいのはやまやまなんですけれどもね。昔のスナックみたいな古いイメージやトラック野郎のイメージが強いのか、なかなか手に取ってもらえない商品になってきています。
悩みの種は多いようですね・・・
そうですねぇ。糸の仕入れ価格が高騰してることなんかは一般の方は知らないんだろうねぇ。昔の約2倍の価格にアクリルの糸なんかは高騰しています。原価計算すると昔のように儲からないですよね。
繊維産業の衰退の影響も大きいですよ。大阪の職人さんにうちは糸を染めてもらっているのですが、仕事の減少から廃業を危ぶまれる状況になってきています。そもそも地場産業として高野口で糸を染めるところから織物として出荷する工程迄行っていた事が、今は担い手がいないことによってできなくなっているのですから。
繊維産業の衰退がいろんなところに暗い影を落としてきています。本当に悩みはつきませんね。
椅子張用モケット以外には、どのようなものに素材として使われているんですか?
小さな商品でロットも少ないのですが、意外な物に使われていたりしますよ。
例えば、黒板消し。
え??!そうなんですか??
ヨーロッパに輸出されているそうで、文字を消す側の素材に使われています。
他には??
女性が使う化粧道具のパフもモケットで出来ていますね。意外でしょう?
意外ですね。
他にもコピー機の内部でトナーを押さえる部品として使われていたり、電子部品の半導体を作る現場で素材磨きのクロスとして使われたり、板金塗装業の方にも塗装の磨きの工程でクロスとして使って頂いているみたいです。
アジア諸国の海外輸入品の影響とかもあるのですか?
世界シェアでも、高品質のモケットを生産しているのは日本のみになります。確かに発展目覚ましいアジア諸国に技術が流出してしまっていることは事実で、最近もタイ製のモケットが輸入されてきていることを聞きました。
ですが、需要の少なさもあってか、まだ今のところそれほど国内市場を脅かす事態にはなっていません。需要があれば、きっと中国とかで大量生産されるのでしょうから、逆にモケットの人気が下火になっていることを裏付けている事をものがたっているのかもしれませんが・・・。
ただ自信を持って言い切れる事は、やはり高品質な品物となると、日本製だな、という事ですね!海外品はまだまだ日本製の商品には劣るようで、国内の職人さん達の技術が「良いもの」の水準を保ってくれていな!ということを感じます。とても嬉しい事です。
『モケットの長所・短所とは? 〜商品開発に活かされるモケットの特徴〜』
今更なのですが、モケットの特徴を教えていただいても良いですか?良い点や弱点をお聞きしたいです。
モケットの特性は、弾力性・強度になり、この点においては自信があります。また、保温性に優れていて、何よりもアザラシの毛皮に似た質感、光沢感が高級感を演出してくれる、特異な素材です。実は、レザーよりもモケットの方が丈夫だったりします!
現代ではアクリル製やポリエステル製の糸を使用し、自然素材で作り出していた質感を再現したりしています。アクリルは絹の質感、ポリエステルは綿の質感に似ています。うちの会社では柔らかな質感のアクリル製無地モケットを主に生産しています。
弱点といいますと?
毛が寝てしまう事ですね。「モケットは生ものと思え」という言葉がありまして、作ったそばから鮮度が落ちてしまうというか。
生鮮食品みたいですね。
そうなんです。接触している部分の毛が寝てしまい、ロールでその状態のママにしていると同じピッチで段差がついてしまい商品価値を落としてしまいます。在庫や輸送時の品質管理にも苦労しますね。
また、水で洗えない点や熱に弱い点、傷がついてしまったら目立ちやすいという特徴も弱点かな。
手間がかかっている分、生地の単価もやや高値で取引されています。レザーなんかに比べると様々な点で競争に負けてしまいがちです。
洗濯ができないんですね。
逆にその弱点を活かした商品もあります。「チンチラ」という生地で、しわ加工を施した商品になります。大きな桶にわざとしわができるようにモケットを詰め込み、高温の蒸気を当てて生地を蒸し上げて作る素材です。加工のおかげで傷が目立ちにくい商品ができました。
また、熱によるエンボス加工によって、わざと毛を寝かせた柄を作り出し、光沢感を出した生地も作り出しました。
弱点を活かすことで、弱点をカバーする商品開発をされているのですね。
今後は女性にも手に取って頂けるような商品展開や、モケットの弱点をさらに克服した素材を打ち出す事ができればと考えております。従来の椅子張用の生地としての用途やトラックなどの内装や車両雑貨だけではない展開ができれば嬉しいですね。シンコーさんからも新たな商品開発の「宿題」を頂いておりますしね。
「宿題」、が出る関係。シンコーさんとはいつ頃からのおつきあいになられるのでしょうか?
先代の時代からお付き合いはあるのですが、この15年ほどは名古屋のシンコーさんがメインのお付き合いになるかと思います。商品開発に関してのご要望などを頂いたり、新しい事をする際のきっかけをくださる良きパートナーです。
男性目線な商品への使用が多かったようにも思われるので、若い女性が「可愛い!」「レトロでお洒落!」と思うような商品ができれば、これ迄と違った道が開けるかもですね!是非モケットで可愛い雑貨など見てみたいです!
本日は長時間の取材に応じていただきまして有難うございました。
其の3 最終項へ 其の三は、匠の芋生社長と弊社矢追社長が、対談形式でモケットの良さを実際の商品で紹介していきます。