そもさんせっぱ

Q26 毛織物の種類を教えてください。

Q26 毛織物の種類を教えてください。 紡毛(ぼうもう)と梳毛(そもう)があるとか。
A26 紡毛と梳毛は、*毛足の長さの違いを利用し、製造器や工程が全く異なる織物です。 見分け方は紡毛はチクチク、梳毛は滑らかです。
例えば、紡毛はツイードジャケットに使われ、梳毛は一般のスーツに使われます。 触るだけで、大きな違いが分かりますね。 織る人、設計する人は、それら糸を織物にしたときの風合いを考えて、どちらの糸を使って特徴を出すか、また他の糸とブレンドして価値を上げるか、タッチ・風合い・光沢を意識して、紡毛織物、梳毛織物と分けて作るのです。

*毛足の長さ=繊維長 一本の毛の長さ
*紡毛を主体とする撚糸工場と梳毛を主体とする撚糸工場があり、工程と機械や撚糸条件が異なります。 織機は、どちらでも織ることができますが、風合いを出す度合いで織機を選定します。
*椅子張りでは、それぞれの糸の特徴をより鮮明に生かして、ざっくりした太い糸は重厚感のある紡毛織物、細い糸のきめ細かい織物は梳毛織物という傾向があります。

技術加筆: 綿織物は触るだけでは見分けがつきにくいのですが、毛織物は触れば誰でも紡毛と梳毛の違いが判るので、お客さんからの質問に対し、プロが間違えない、恥の書きにくい毛織の分類ですね。  意外に梳毛の語源を知らない人が多い。 梳毛の梳は、くしを梳(と)かすの”そ”。 読み進めてください。 ネット等を見ていると、一部のお客さんへの情報が間違っているようですから、先ず、表面を撫でるように触ってもらい、チクチクか滑らかか、確かめてもらってください。 紡毛と梳毛は糸の作りが全うので、紡毛織物と梳毛織物も全く別な織物です、と即訂正をしてあげてください。 ”長い髪を梳かすように、糸も大切に梳かしてから撚糸しております。”という類の説明は、ネット上などの宣伝では有効ですので、活かして貰ってください。

羊の種類と毛の硬さを無視していうと、一頭の羊からは、細くて長い毛と硬くて短い毛が取れます。 短い毛足と長い毛足の両方を別々に分けます。 (本来は櫛で梳かすような工程で、梳けない方が短く硬い毛、梳けてそのまま整頓された毛に並ぶのが長くてやわらかい毛となります。) 同一人物がそれらのワタの塊を別々に原始的な方法で糸にしてみます。

短い毛のワタ状と長い毛のワタ状、それぞれの毛の塊を手に取り、手を合わせて、こすり合わせるとします。 短い毛を集めたワタでは、糸になっていく長さの方向へ、長く巻き付くことが出来ず、横方向に回転してしまい、毛の先端が糸から飛び出てチクチクします。 短く硬いので、余計にチクチクします。 反面、長い毛は、糸の方向に巻き付くように回転して、柔らかく滑らかな糸になります。 他の素材と混紡する場合は特に、使い込むと、ヨコの断面積が異なる分、光沢の違いに出てきます。 同じ人が同じ手の摩耗で擦って糸にするので誤差がない条件で、2種類の異なる糸ができますね。 2種類の風合い、艶のことなる糸が出来るので、原始的に作っていた頃に戻って説明すると、とても分かりやすいですね。

艶は、繊維(毛)のヨコ面が、糸のヨコ面積に多く出る梳毛の方が強くでます。 原始的に、また、このように、それぞれの糸の本質が、紡毛と梳毛に分かれてしまう、大きな違いなのです。 チクチクの紡毛は、ヨコ方向に毛が出る分、かさ高(空気層ができて太く見える)になり、保温性が高くなる利点があります。 滑らかな梳毛は、絹の様な光沢がでて、撚糸の回転数を上げれは、細見の糸になりシャリ感が出て夏用に、また、撚糸の回転数を下げれば、紡毛のケバケバ感とシャリ感の間の糸になり、適度な保温性や調湿性があり多用途に使用できる利点があります。 毛羽がない分、毛玉ができにくく、特にスーツに向いています。 紡毛の代表的商品、ツイードでは、ジャケットが主流ですが、ざっくり作る分のピリング発生しやすいなどで、スーツのパンツ側で使われることは少ないです。 綿とポリエステルの混紡下着が好きな人に、ドライで機能あるポリエステル100%の下着を、同じだという人がいるでしょうか。 同じような糸に見えても、素材が違えばそれは別物、織物の世界です。 紡毛用の短い毛と、梳毛用の長い毛は、同じ毛でも種類が異なる素材違いとして、織物産業では扱っています。 従って、国際的に種類を分類する実行関税表に使われる輸出入コード自体が、紡毛と梳毛で異なるのです。 世界的に、普遍的に同じではないと定義されているのです。 これを同じだとユーザーさんへ説明するような事態が在ってはなりません。

本当の工程では、機械的に連続して流れてますが、くしでスクと、細くて長い毛は、梳かされて滑らかに並び、その方向に摩耗して糸にするので、より、整った糸になり、遊び毛がなくなります。 また、短い毛は、くしから落ちるので、そこに混ざりにくいですね。 くしで梳(と)かす、梳かして糸を同じ方向に整えてから糸にこさえるので、梳毛(そもう)と呼ぶのです。 梳かすことで、毛方向が並ぶので、ヨコ断面の光沢が強調され、発色が良くなります。 良いスーツ程、独特の高級な光沢がありますね。 議員さんの来ているスーツですね。 テレビ画面でもその光沢の違いが判ります。

毛は生き物の恵みなので、その年によって、天候によって、出来が違います。 つまり、相場物です。 ワタの状態で、毛の長さや硬さが分けられてグレードを付けられて販売されております。 特に、毛足の長さは、産地やフィーダーさんによって特徴があり、ブランドされた産地も多いのです。 グレードの参考になるわけですね。 繊維の一般論として、細くて柔らかい長い毛足の繊維は高く、太くて硬い短い毛足の繊維はやすい。 化学繊維でも同様で、ポリエステルでは、マイクロファイバーがその例の代表です。 モヘアは山羊から取る毛で、非常に細く長く高級な毛として扱われています。 *弊社のモヘアモケットの価格は、200mのロット生産で長い納期を貰い、mあたり5万円から15万円頂いて別注しています。 グレードと目付、その時の毛の相場で価格を変えています。 大使館などの施設向けに使用されています。

くしから落ちた毛だけでは短い、毛足の長さ不均一のため、安定した繊維になりにくいので、通常は長い繊維も一緒に混ぜて撚糸されます。 長い繊維側は、化学繊維が選べれます。 化学繊維がナイロンしかなかった時は、長繊維であるナイロンと毛が混ぜられ、その後は発色の良い短繊維アクリルと混ぜられて、毛織物が多くの人に使われるようになりました。 アクリルは化学繊維の中でも発色性がよく、ウールの光を吸収してしまうような色具合とマッチングも良いので、私個人はアクリルと混ぜるのを基本としています。 直近の数年の傾向で、軽い、洗える、乾くなど機能スーツが人気ですが、これらの多くは、ポリエステルと混紡されております。 アクリルの扱いの悪さや製造煩雑さから、機能も付けやすく、価格も安定しているポリエステルに代わっています。 椅子張りでは、ポリエステルと混紡する例がすくないのですが、糸の製造ロットほど織物の需要がないからでしょうか。 アクリルと混ぜる場合、混率は70:30が多く、そのどちらか毛となります。 イメージでは、計量カップに入れてどちらかの繊維を何カップずついれるとします。 カップに入る量はボリュームですが、糸の太さは恒重式といって重さで単位が変わります。 毛とアクリルの比重差で、重さで比率換算すると、その比率になりやすいのです。 勿論、7:3の比率は毛七(そもさんせっぱ Q25で知られる通り、くずワタを糸にしたときに安定しやすい比率として、古くから知恵の一つとして伝わっています。

弊社でも、昭和40年後半から90年にかけて紡毛糸で混紡して織りあげたボンスターで一世風靡。 日本人はチクチクするウール感が嫌われる傾向にあり、紡毛製品では今でも問題視され改善を指摘される傾向にあります。 そのチクチク感の問題を避ける開発を主流とした90年代の開発では、梳毛のニュースターに置き換え、その後、梳毛系の一種で空紡糸のマイスターと発展してきました。 現在は、その梳毛の開発の流れからラバンダへと引き継がれています。 梳毛と言えばシンコーといわれる所以です。

ちなみに紡毛の扱いがない訳ではありません。 OEM、またサンプル帳でも、紡毛でありながらチクチクさせない工夫をして販売をしております。 *当社の紡毛商品は、非常に優秀で稀な技術で紡毛なのにチクチクさせない特殊性があり、後世に残したいのですが、市場トレンドが安いポリエステル繊維商品に傾いており、OEMでの採用をお願いしているところです。

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